2023年05月15日

妙な味のある「鉄道運転士の花束」


セルビアのローカル鉄道を舞台に、運転士父子の親子愛をブラックユーモアで描く映画「鉄道運転士の花束」を観ました。

定年間近の鉄道運転士イリヤは、電車事故で28人を殺してしまった記録の持ち主。養子の息子シーマは、義父の仕事を継ぎましたが、いつか人を殺してしまうかもしれない緊張感に耐えられなくなります。誰もが乗り越えなければならない人身事故を恐れすぎる息子を助けるため、イリヤは自殺志願者を探し、飛び降りるかわりに電車に轢かれてほしいと無茶な交渉を始めます…。

今後必ず経験しなければならない事故に怯え、精神的に追い詰められる前に事故体験させてしまおうとする父の気持ち…、ストーリーだけ読むと、重苦しくハードな映画のように感じますが、なにかのんびりとしたコミカルな世界で、日本とは別世界といっていいセルビアの風景と相まってノスタルジックすら感じる何とも言えない味のある作品になっています。

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2022年12月30日

フィッシュストーリーとビートルズ


伊坂幸太郎の小説を原作にした2009年の映画「フィッシュストーリー」。70年代の売れないパンクバンドが残した“FISH STORY”という曲が、めぐりめぐって彗星が衝突する2012年の地球を救うというストーリーです。コミック的な荒唐無稽な世界が繰り広げられ、気軽に楽しめる映画でした。

その中で、1分間の無音を入れることになった“FISH STORY”に、「ビートルズが無音を入れるならかっこいいけど、売れてないバンドがやったらシャレにならない」、みたいなセリフが出てきます。これはビートルズの名盤Sgt. Pepper'sの「A Day in the Life」エンディング後の無音(実際は15キロヘルツの高周波音)を指しているのでしょう。それまでのレコーディングのルールを打ち破った中期以降のビートルズにはそんな斬新な楽曲がたくさんあります。

● Taxman
奇妙なノイズに1.2.3.4のカウントと咳払いで曲が始まる斬新さと印象的なリードベースは、その後のベースアレンジに多大な影響を与えました。


● A Day in the Life - Sgt. Pepper Inner Groove
オーケストラの一番低い音から最高音へと狂的に進むアレンジ。そして残響するEのピアノコードエンディングの後に高周波音、そして逆回転させた笑い声と話し声が数十秒入ります。


● I Am The Walrus
ルイス・キャロルの「鏡の国のアリス」の[セイウチと大工]に触発された曲で、シュールレアリスムな歌詞、奇妙な弦楽アレンジなどサイケデリックで摩訶不思議な楽曲です。


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2022年10月29日

たまらなく和む「Piper」

アカデミー賞短編アニメ賞を受賞したピクサー作品「Piper(ひな鳥の冒険)」。浜辺に住むシギの雛の出来事を可愛らしくコミカルに描いた6分ほどの短編ですが、ほんとに和みます。

鳥のデフォルメは、マンガチックに擬人化したり、表情を作りすぎて鳥本来の可愛さがなくなってしまうものが結構ありますが、さすがピクサーだけあって、無駄な表情で感情表現せずに圧倒的かわいい世界を描いています。

ネット上でヘイトコメントばかり書き込んだり、煽り運転やカスハラをついやってしまう、そんな心が荒んでしまった人にもぜひ観てもらいたい、心を癒してくれる名作です(これを観ても文句を言ってしまう方はもう心の修復は不可能です…)。



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2022年07月25日

なんともいえないおかしい映画



2013年アメリカのコメディ映画「スティーラーズ(Pawn Shop Chronicles)」を観ました。ある質屋に客としてやってきたダメな3人を描いたオムニバス映画です。

ヴァーノンは、ロウドッグとランディと強盗を計画していますが、ガソリンが必要でショットガンを質入れするためアルトンの質屋にやってきます。
リチャードは、新婚旅行中に金を調達するためにアルトンの質屋を訪れますが、そこで6年前に行方不明となった前妻の指輪を見つけます。
リッキーは、プレスリーのモノマネでドサ回りをしていて文無しとなり、仕方なくプレスリー本人が実際に使っていたという金のメダルを質に入れます。

出ている人がみな短絡的で思慮というものがないダメ人間な映画です。ストーリーの全く違う3話ですが、すべてが同じ時間帯での話で絶妙に絡み合っているのが後半分かります。単純頭なポール・ウォーカー、子供から成長できないブレンダン・フレイザー、サイコなイライジャ・ウッドが観られる映画でもあります。


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2021年11月27日

チャーリーが怖い「ヘレディタリー/継承」


光が降り注ぐ中での異色ホラー映画「ミッドサマー」のアリ・アスター監督による2018年作品「ヘレディタリー/継承」を観ました。こちらは終始不気味で重い空気が漂うホラー作品になっています。

長年疎遠だった母エレンが亡くなります。ミニチュア模型アーティストのアニーはエレンに複雑な感情を抱いていましたが、夫スティーブン、高校生の息子ピーター、人付き合いが苦手な娘チャーリーと共に葬儀を行います。ピーターの奇行や娘チャーリーが鳩の首を切ったり怪しげな絵を描くなど奇妙な出来事が起こり始めます。あるパーティーの日、ピーナッツアレルギーが出たチャーリーを乗せたピーターの運転する車は事故を起こし、チャーリーは首をもぎ取られ亡くなってしまいます。精神が不安定になったアニーはグループカウンセリングにいたジョーンと出会い降霊術を行いますが、家族はさらにバラバラになっていきます…。

よくある悪霊を退散させる系の話ではありません。救いのないというか、平穏な結末にならない”ある継承”が行われる映画です。娘のチャーリー役のミリー・シャピロの存在感がすごいです。エンドロールに流れるJudith Collins「Both Sides Now」の天使的な歌が対極な世界でありながら妙にしっくりくるのが怖いです。




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2021年11月13日

ティラノがネコだったら


恐竜映画の名作「ジュラシック・パーク」のティラノサウルスがネコだったら、というパロディ映像です。観た人なら誰もがわかる名シーンを再現しています。

ティラノサウルスを演じるネコは、オレゴン州ポートランドに住む4歳の猫リジー。クオリティの高い合成で全く違和感がありません。現実に10m越えのネコがいたら恐ろしいのでしょうが、映像は思わず笑ってしまう可愛らしさがあります。

詳細記事
●カラパイアより「猫が熱演。ジュラシック・パークのティラノサウルスがもし猫だったら?」
https://karapaia.com/archives/52307402.html

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2021年10月22日

「歌謡曲だよ、人生は」の蛭子パワー


- 「歌謡曲だよ、人生は」予告編 -

昭和時代のヒット歌謡曲を題材にした、2007年の映画「歌謡曲だよ、人生は」を観ました。曲をモチーフにそれぞれ10分程度の短編オムニバス映画になっています。短いため中には全く記憶に残らない話もありますが、あの蛭子さんが監督した「いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー」は、ある意味傑作です。

先輩社員たちにからかわれ、いじめられているOL良子。そんな彼女を想う同僚の一郎の怒りはついに限界に達してしまいます。職場は突然、新宿中央公園になり、そこで一郎は職場のみんなをぶちのめしていき、血みどろの中、一郎と良子はダンスを始めます…。

ストーリーは単純で、そして展開はシュールで、まさに蛭子マンガの世界です。おそらく受け付けない人には、わけわからない作品でしょう。逆に不条理系ギャグ漫画が好きな人は、その世界観に思わず笑ってしまうでしょう。タイトルとなった荒木一郎の「いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー」という歌もシメの”ゴ〜ゥ”が麻薬のように効いてくる名曲です。

● いとしのマックス/マックス・ア・ゴーゴー - 荒木一郎


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2021年08月24日

29歳のままのアデライン

100年以上も生き続けた女性の数奇な運命を描く映画「アデライン、100年目の恋」を観ました。女性向け作品ですがこういった異時代の巡りあい系ファンタジーは惹かれます。

アデラインは、事故で真冬の川に転落し心臓が止まった瞬間雷が落ちたことで蘇生し老化が止まってしまいました。それ以来アデラインは29歳の外見のままとなり、怪しまれないよう秘密を唯一知る娘とも離れ、10年ごとに名前を変え各地を転々として100年以上生きてきました。ある日パーティーで出会ったエリスと恋に落ち、彼の両親の結婚40周年パーティーに向かったところ、彼の父親ウィリアムは驚愕の表情を浮かべ「アデライン」と呼びかけます…。

永遠の若さを手に入れる、誰もが夢見ることですが、自分だけ歳を取らないことは不幸以外の何物でもありません。映画ではそんな苦しさも描いていますが、それぞれの時代の髪型やファッションなども楽しめるポップなロマンスファンタジー映画になっています。



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2021年07月13日

アヴァンギャルドな「狂つた一頁」

1926年(大正15年)に公開された、日本初のアヴァンギャルド映画「狂つた一頁」を観ました。監督衣笠貞之助が横光利一や川端康成などの新感覚派の作家と結成した、新感覚派映画聯盟の第1回作品と言われています。

元船員の男は、精神に異常をきたした妻を見守るため、妻が入院している精神病院に小間使いとして働いています。ある日、娘が結婚の報告に病院を訪れますが、恋人に母が狂人であることを知られたくない娘の気持ちを知った男は、妻を病院から逃がそうとします。しかし男は次第に錯乱し、次々と幻想を見るようになります…。

ドイツの有名なアヴァンギャルド映画「カリガリ博士(1920年)」に触発された、大正モダニズム時代の斬新で前衛的な作品です。難解でちょっと怖い映画ですが、100年近く前の自由な風が流れていた大正時代の凄さがわかる映画でもあります。




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2021年06月11日

サスペンスで変な映画「結婚相談」

円地文子の小説を元にした1965年の映画「結婚相談」を観ました。当時大人気だった芦川いづみが婚期を逸し焦る30歳の主人公を演じた異色作です。

30歳になる鶴川島子(芦川いづみ)は、友人の結婚であせりが生じ、新聞広告でみつけた戸野辺力結婚相談所を訪ねます。果樹園を経営する初老の男・日高を紹介された島子は、父親のような優しさと包容力を感じ、夜を共にしてしまいますが、数日後日高に妻子があることを聞かされます。結婚相談所が狂言見合用の役者を使い相談者をカモにして金儲けをしていることを知った島子は、ヤケになり戸野辺力のいいなりにコール・ガールとして働くことになってしまいます…。

公金横領犯高村(高橋昌也)との関係あたりから、一種異様な世界になっていきます。女所長戸野辺力(沢村貞子)の笑い声、狂人秋宏の母、鎌田夫人(細川ちか子)の魔性感、そしてエンディングのカメラワークと音楽、実験的とも違うホラーやサスペンスの匂いまでするなんとも言えない不思議な映画でした。




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