2020年06月06日

ふるさとの加藤嘉


徳山ダム建設で湖底に沈む、岐阜県の徳山村を舞台にした1983年の映画「ふるさと」を観ました。観る前のイメージは、ダムに沈む村の悲哀を描く社会派な映画、という感じで”ちょっと重そうだな”とそれほど期待はしていなかったのですが、消える古い暮らし=自然の中での老人と少年のふれあいが暖かく、そして主人公、村の老人役「加藤嘉」の怪演がすごい映画でした。

ダムに沈む徳山村の老人・伝三は、妻を亡くして痴呆症状が現れ始めていました。かつて伝三がアマゴ釣り名人だったことを知った隣家の少年・千太郎に誘われ伝三は一緒に釣りに行くようになると、病状は軽くなり平穏な日常が戻ってきました。しかし長雨が続き釣りに行けなくなると痴呆症状は狂的になり、隠居部屋を破壊するほどになってしまいます。千太郎はそんな伝三に長雨で中止になった秘境・長者ヶ淵へ釣りに連れて行ってくれと頼みます。平静を取り戻した伝三は千太郎と長者ヶ淵へ向かいます‥。

とにかく加藤嘉の鬼気迫る演技は必見です。モスクワ国際映画祭で最優秀主演男優賞を受賞しており、映画祭の審査員は、加藤の演技がリアル過ぎて、本当の痴呆症老人と思ってしまったと言われています。昭和に活躍した俳優は、本当に存在感ある人がたくさんいました‥。

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2020年01月16日

ハンガリーの奇妙な日本趣味映画


「九尾の狐」伝説をモチーフにした、なんとも表現できない2015年ハンガリー映画「リザとキツネと恋する死者たち」を紹介します。

1970年代のブダペスト。元日本大使未亡人の看護人として働く地味で孤独なリザは、日本の恋愛小説と彼女にしか見えない日本人歌手の亡霊“トミー谷”の歌声が心の拠り所でした。30歳の誕生日を迎え、小説にあるような甘い恋に出会おうと外出許可をもらい2時間だけ街に出かけますが、外出中未亡人が殺害される事件が発生します。そこから彼女と交錯する人たちが、なぜか次々と殺されていきます…。

トミー谷の歌う日本歌謡風の奇妙な曲が散りばめられ、”自分はいったい何を観ているんだろう”と混乱してしまう可能性もありますが、なんとも言えない奇妙な世界観を味わうことができます。


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2019年09月23日

純愛名作「野菊の如き君なりき」


伊藤左千夫の名作「野菊の墓」は、何度も映画やドラマ化されていますが、その中でも最も原作の世界を味わえる、1955年・木下惠介監督「野菊の如き君なりき」を紹介します。ストーリーはベタすぎるほど知られていますが、年老いた男の回想で始まる、若き日の純愛を描いています。

旧家の息子政夫は、手伝いにきた2歳年上の従姉の民子といつも一緒にいるほど仲が良く、二人はお互いを「民さんは野菊のような」「政夫さんは竜胆のよう」と例え、惹かれあっていきます。子供から大人への時期、村に噂も広まって周りは心配するようになり、政夫は寮のある町の学校へ入れさせられ、民子は半ば強制的に嫁がされたことで、悲劇的な結末を迎えます…。

残念なのは、モノクロ映画なので美しい田園風景に色がないところです(原作の場所は柴又の向かい松戸矢切ですがロケ地は長野千曲川や飯綱)。ただ田村高廣の民子の死を政夫に伝えるシーンの演技は必見です。大げさで感情的な演技になりそうな場面をさりげないようでものすごく深い悲しみを見事に伝えています。1981年の松田聖子主演のものも悪くありませんが、原作を好きな方は、1955年の木下作品をお勧めします。





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2019年02月27日

ブッとんだ「狂った野獣」

いかにも70年代のやりたい放題な映画「狂った野獣」を紹介します。渡瀬恒彦主演の重厚なパニック・アクション映画と思ったら、笑いどころ満載のブッとんだ映画でした。

テストドライバーをクビになった速水は、8500万円相当の宝石を盗み、恋人・美代子と落ち合うため路線バスに乗り込みます。そこに銀行強盗に失敗した谷村と桐野が逃げ込み、バスをジャックして乗客全員を人質に取ります。緊張状態の中、心臓に持病のあるバス運転手が発作を起こし、暴走バスはパニックになります…。

ストーリーだけみると、手に汗握るパニック映画と思ってしまいますが、バスに乗り合わせている人物が、オーディションに向かう女優の卵、動物病院へ急ぐおばさん、なかばボケて動じない老人、不倫中の学校教師、チンドン屋、と一癖も二癖もある人たちばかり(濃すぎる配役も)で、普通の映画でないことがわかります。超個性派俳優の宝庫「ピラニア軍団」だらけといい、今の道交法ではあり得ない公道での無茶な撮影といい、70年代のやりたい放題な世界が楽しめる映画です。




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2018年10月18日

考えさせられるオクジャ


心優しい巨大生物と一人の少女が巻き込まれてゆく、Netflixオリジナル映画「オクジャ/okja」を紹介します。コミカルな面もあり気軽に観られますが、観終わった後に考えさせられる作品でもあります。

世界的な畜産企業であるミランド社の遺伝子組換えによって生み出された生物は、世界各国の畜産農家に預けられ、10年育てた後に発表されることになっていました。韓国の山奥で育てられた巨大生物は、農家の少女ミジャに「オクジャ」と名付けられ、山の中で祖父とともに仲良く暮らしていました。ある日ミランド社に務める叔父とアメリカからの取材チームが現れ、オクジャはニューヨークへ移送されてしまいます。買い取られることを知らなかったミジャは怒り、オクジャを取り戻そうとソウルに向かい、そこで出会った動物愛護団体とともにニューヨークへと追いかけますが、醜い争いごとの渦に巻き込まれていきます…。

心優しいオクジャとミジャの関係を知っていると、畜産企業の悪徳な世界に怒りを覚えますが、普段何も考えず食べている食肉のシステムも同じようなもので、日本でも毎日何万頭の牛、豚、鶏が殺され、食肉となってスーパーに並んでいます。残酷だからと、みんながベジタリアン、ビーガンになれば解決するのか?最近の研究では、植物にも痛みや苦しみがあるかもしれないと言われています。動物はかわいそうだが、植物は感情が見えないから引きちぎって、切断して殺していいのか?考えれば考えるほど、答えが出ませんが、何も思わない人より思う人でありたいと思います。


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2018年08月14日

es[エス]という映画

1971年にアメリカのスタンフォード大学で行われた実験を元にした映画「es」を紹介します。環境や暗示で簡単に人の心が変貌してしまう恐怖は、ホラー映画以上に背筋が寒くなります。

大学の心理学部で、実験の被験者となってくれる男性を公募し、無作為に「囚人役」と「看守役」に分け、地下にある擬似刑務所で実験を始めます。実験とわかっているので早く終わらせて報酬を貰おうと最初は和気あいあいとしていましたが、徐々に「看守役」は、実験の指示である秩序を理由に攻撃的で高圧的態度となり、逆に「囚人役」もその秩序を保つため服従するようになります。事態はエスカレートしていき、虐待、暴行が行われ、死者も出る惨劇となって実験は中止されます…。

スタンフォード監獄実験の結果は、「権力への服従」、「非個人化」というものでした。戦時下やカルト・新興宗教の世界で見聞きする狂気ですが、実験に参加したのはごく普通の人たちで、まさに誰にでも起こりうると言えます。過剰報道や作り出されたブームにすぐ乗ってしまいがちで、「みんながそうだから自分も〜」となりやすい日本人は、個人主義の強い欧米以上に集団暗示にかかりやすく、太平洋戦争末期の異常な状況を考えると、同じ実験をしたらもっと過剰な結果になったかもしれません。





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2018年06月19日

荒廃感と怪しさ溢れる「Uターン」


なんともいえない荒廃感と劇画感のある、オリバー・ストーン監督の映画「Uターン」を紹介します。

ボビー(ショーン・ペン)は、マフィアへの借金を返済するためベガスへ向かう途中愛車マスタングが故障し、アリゾナの荒野の小さな砂漠の街スペリアに立ち寄ります。そこで美女グレース(ジェニファー・ロペス)、彼女の夫ジェイク(ニック・ノルティ)と知り合い、ジェイクに浮気性のグレースを殺してくれたら報酬をやるという話を突然持ちかけられます。ジョークだと受け流していましたが、借金の返済のために用意していた金を強盗に出くわし失ったボビーは、ジェイクの提案を思い出します…。

砂埃が感じられ排他的で閉塞感あるスペリアの街は、住人も一癖ある関わりたくない人たちばかり登場します。配役も素晴らしく、荒廃感と怪しさ満載ですが、ストーリーは単純なので誰もが楽しめる怪作です。


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2018年04月20日

スウェーデンの「幸せなひとりぼっち」


生きる希望をなくした偏屈な男と近所に越してきたイラン人女性家族との交流、再生をユーモアに描く、2015年のスウェーデンの映画「幸せなひとりぼっち」を紹介します。

最愛の妻を亡くした59歳の男オーヴェは、口うるさく偏屈で近所から煙たがられています。父のいた鉄道会社に18歳から勤め続けていましたがリストラされ、絶望し、首を吊って自殺しようとしますが、隣に越してきたイラン人女性パルヴァネ家族が騒がしく、なかなか実行できません。陽気な彼女を疎ましく思いつつ、接するうちに徐々に彼も変わっていきます…。

映画は、冬の木漏れ日のようで、重苦しくなくハッピーエンドな結末(最後に死がありますが)なので気軽に楽しめます。日本と違って福祉が充実しているスウェーデンですが、やはり高齢化社会、そしてお役所仕事などいろいろ問題があるのもわかります。


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2018年04月06日

ただ走る「ランデブー」


フランスの名匠クロード・ルルーシュが1976年に製作した、エンジン音を轟かせながら、朝のパリの街をひたすら9分間走るだけの作品です。

明らかに交通違反してますが、アクセル全開でゴーカートのような低いアングルは迫力があります。看板だらけで雑居な東京と違って、どこまで走っても朝のパリの街は綺麗なので、不思議とずっと見入ってしまう作品です。


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2018年02月24日

濃厚カルト映画「ホーリー・マウンテン」

熱烈なファンを持つアレハンドロ・ホドロフスキー監督の名作です。当然すべての人にはお薦めはできません。下記予告編を観るだけで、人によっては理解不能、不快、嫌悪しか感じないかもしれません…。

ストーリーは、キリストに似た盗賊が練金術師と出会い、大工場経営者、警視総監など9人で不死の賢者たちが憩う神の住む山、ホーリー・マウンテンを目指す、というあらすじですが、基本ストーリーは重要ではありません。とにかくすごい映像が見ものです。脳内がカオスになる快感、狂的な戦慄に魅かれる人にはお薦めです。ダリなどシュールレアリズム系絵画に惹かれる方にも観てほしい作品です。この禁断の世界にハマった方は、ジョン・レノンが絶賛し配給権を買ったことでも知られる「エル・トポ」も観てください。





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