2020年06月28日

動物根付の魅惑

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根付は、着物の帯や印籠やたばこ入れなどに引っ掛ける留め具ですが、現在のシンプル路線な装飾デザインとは真逆の、なんでもありな芸術表現の極みのような世界を持っています。

特に動物をモチーフにした根付は多様で、また魅力的でもあります。光村推古書院の「根付の図鑑《動物》」には、そんな工芸品として一級品の動物をモチーフにした根付が多数紹介されています。シンプルな表現のものから、よくぞこんな風に構成したな、と驚嘆してしまうものまで、観ているだけで楽しいです。


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2020年05月03日

補陀落と小磐梯

"不要不急の外出を自粛"の今、自画自賛好きな右寄りの方やキャスターが、「自粛でここまで出かけなくなる日本人はすごいです」と渋谷スクランブル交差点を見ながらコメントしてますが、行きたい店が閉まってるから行かないだけで、店が開いてる商店街やパチンコは普段以上に混雑しているのが現状です。

早く収束させるには、なるべく外出は控え、家で過ごすのがベストです。映画を観るのもいいですが、たまには読書三昧するのもお薦めです。よく、落ち込んでる時は楽しく気軽なのがいいと言う人もいますが、時としてその楽しさが自分とはかけ離れた能天気さや絵空事に感じて楽しめないことがあり、逆にヘビーで深い方が癒してくれる場合もあります。

井上靖の短篇集「補陀落渡海記 井上靖短篇名作集」は、後者に当たりますが、人は皆悩み、恐怖や自然の脅威などを体験し、時を生きていることを感じさせる名著です。

熊野補陀落寺の記録に残る実話を元に、61歳の11月に小舟に乗って西方浄土に旅立たなければならない主人公住職金光坊の恐怖と葛藤を描いた表題作「補陀落渡海記」も必読ですが、その世界に入り込んでしまったのは、1888(明治21)年の磐梯山大噴火を描いた「小磐梯」です。裏磐梯の檜原村へと測量調査に赴いた郡役所の役人の手記というかたちの小説で、磐梯山近辺の異常現象に不吉なものを感じながら調査していくと、「ここから先に入ってはいけない」と気がふれたような老人に出会ったり、動物が逃げまどう姿を目にします。そして、地鳴りや揺れで不安になった住民が、山に向かって「ぶんぬけるんなら、ぶんぬけてみろ」と叫んだ瞬間、火山は大爆発を起こします…。

圧倒される自然の脅威の前に人は何もできないことが、ちょっと寓話的な世界で繰り広げられる名作です。他にも「グウドル氏の手套」「姨捨」「道」など、独自の世界観が味わえる9篇が収録されています。




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2020年02月07日

C-3PO金色様

時代小説ともSFとも違う、不思議な世界を味わえる恒川光太郎の「金色機械」を読みました。恒川光太郎といえば、ホラー小説大賞受賞の「夜市」など独自の異世界を描くのが得意な作家ですが、この「金色機械」も舞台を江戸時代にした何とも言えない不思議な世界を堪能できます。

人の殺意を見抜く力がある、遊郭の主・熊五朗のもとに、手を触れるだけで命を取ることができる遙香という女が訪れます。過去を話始める遙香と幼少期に鬼御殿と呼ばれる山で過ごした熊五朗の過去は、金色様という不思議な存在と深く関わっていました…。

人間とは次元の違う力を持っている謎の「金色様」の風貌は明らかにC-3POです。熊五朗の生い立ち、遙香の生い立ちなど時代ごとに章が分かれていて、時代の流れ、人の死や別れなど物語は壮大な世界ですが、「金色様」が関わることで重くならず、ファンタジー感ある作品になっています。




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2019年10月05日

サンカの出てくる小説

ほんの少し昔まで、「サンカ」と呼ばれる、日本の社会システムに属さない人々が住んでいました。漂泊の民、山の民とも言われ、サンカという呼名は、日本人=定地人が勝手に付けた名称です(日本人という概念も庶民には明治以降からで、江戸時代までは武蔵とか相模の"国"の者といった感じでしたが)。

定住せず何百キロも山々を巡り、狩猟採集によって生活し、箕籠など作っては村々を訪れることもあったようです。戦後、徹底的に戸籍管理され、流浪の民サンカは日本から消えてしまいます‥。

彼等がどんな暮らしをしてたのか、今では想像するのも難しいですが、小説の中に出てくるサンカで少しその姿が垣間見られます。

BGMに「姫神せんせいしょん」や喜多郎を流しながらサンカ小説を読むとトリップできます。


●サンカの民を追って 山窩小説傑作選 - 岡本綺堂他
まだサンカの人々がギリギリ存在していた頃の作家たちの短編集です。


●春秋山伏記 - 藤沢周平
藤沢作品には珍しく、山伏と村人たちのふれあいを描いた大人の昔話的小説で、山の民も関わってきます。


●鷲の唄 - 椋鳩十
サンカ小説として有名ですが絶版のようです。厳しい漂泊の暮らしを描いています。





水光る - 姫神せんせいしょん



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2019年08月04日

読書の夏

暑い夏、出かけるのも億劫になってしまいます。エアコンの効いた部屋でのんびり読書するのも一考です。ジャンルは違いますが、おすすめの本をいくつか紹介します。

下記載せたサティの「ジムノペディ」なんか聴きながら本の世界に浸るのも悪くありません。

●村のエトランジェ - 小沼丹
小さな村に疎開してきた、美しい姉妹の恋をめぐる波紋と水難事件を描いた表題作など初期作品8篇が収録されている短編集です。夏がテーマではないのですが、文章に品があって湿度がないので、高原のホテルで読んでるような気持ちになります。




●異形のものたち - 小池真理子
セミが鳴り響く農道の向こうから白い日傘をさした和服の女性は般若の面をつけていた「面」など、異形のものたちと出会う、怪奇幻想な短編6作品が収められています。




●古道具屋 皆塵堂 - 輪渡颯介
文学というより気軽に読めるノベルズ系の時代小説です。曰くつきの古道具屋・皆塵堂を舞台に怪異な出来事が次々と巻き起こるシリーズです。妖怪漫画を読むような感覚で気軽に楽しめます。




サティ「ジムノペディ」
Erik Satie - Trois Gymnopedie 1.2.3



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2018年11月10日

その世界に入りたい「木もれ陽の街で」


「木もれ陽の街で」諸田玲子

恋がまだ多くの人にとってひそやかだった時代、昭和26年〜27年の荻窪を舞台にした、諸田玲子の小説「木もれ陽の街で」を紹介します。

空襲の被害に遭わず、周りには与謝野晶子邸や元陸軍大尉の家が残る荻窪に住む小瀬家。主人公「公子」は、丸の内にある商社の医務室に勤務しています。近所には結婚せず姉妹で暮らす父方の伯母が住み、八丈島に住む母方の大伯母は、初恋の男と再会し逢い引きのため年に二度小瀬家にやってきます。幼馴染の祥子は代議士の息子との婚約が整い、裏の家では一家心中が起き、向かいのお妾さんが通いの学生と浮気して追い出されたりと、小さな事件が起こる中、公子は、憂いを持つ画家の片岡と出会い、お互いに惹かれていきます…。

向田邦子的世界が好きな方にはお薦めです。秘めた恋だけでなく結構ドロドロした恋愛や、重い死が絡んできても、なぜか暖かい空気というか、やわらかな世界があって、そこで暮らしている幸せが感じられます。


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2018年10月26日

つげ義春を読みながら




つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人

これからの季節、「つげ義春」が読みたくなります。つげ義春を初めて読んだのは、当然後追いで、90年代初めくらいだったと思います。「無能の人」や「ゲンセンカン主人」などが映画化され、ちょっとリバイバルブームになっていた頃でしょうか。多摩美時代、横尾忠則や寺山修司などで6.70年代にハマりだしていたので、つげ義春は必然でした。

つげ義春作品は、独自のシュールさとエロティシズム、そして郷愁をそそる世界観に包まれていて、なんとも言えない至福の時を過ごせます。展開や結末がどうだとかいうマンガではないので(コミック系マンガ好きの人は受け付けないかもしれません…)、その世界に浸りたいときは、何度でも読み返して楽しめるのも魅力です。下記の曲は、つげ義春世界を旅する時に聴いている曲です。

●赤い花・白い花 - 赤い鳥


●かくれんぼ - はっぴいえんど


●小春おばさん - 井上陽水




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2018年01月11日

吹雪の山荘もの

ミステリ小説のジャンルに「クローズド・サークル」というのがあります。密室ものの中で、雪山や孤島を舞台に外界と遮断された状況下で起こる事件を扱った作品で、「吹雪の山荘もの」「嵐の孤島もの」ともいわれています。

本格的ミステリファンではなく、読みながら推理したりする頭も持っていないので、横溝(金田一)映画を観る感覚で読むのですが、それでもそんな閉ざされた舞台の一員になったつもりで読むとなかなか楽しめます。

真冬になるこの時期、雪山を舞台にした「吹雪の山荘もの」作品を幾つか紹介します。布団に入りながら、暖房の効いたリビングやこたつの中で、落ち着いた喫茶店で、雪山へトリップするのもいいものです。


●星降り山荘の殺人 - 倉知淳
雪に閉ざされた山荘に集まった、癖の強い面々。交通が遮断され電気も電話も通じない中で発生する連続密室殺人。事件解決かと思ったら…、大どんでん返しが待っています。




●ある閉ざされた雪の山荘で - 東野圭吾
舞台稽古のため、乗鞍高原に集まったオーディションに合格した男女7人。豪雪で孤立した山荘で一人また一人、仲間が消えていく。これは芝居なのか、現実か…。




●彼女らは雪の迷宮に - 芦辺拓
雪深い山荘に招かれた、6人の女たち。そこに7人目の客を名乗る不審な女が現れ、その直後から一人ずつ女性の姿が消えてゆく…。




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2017年08月21日

青空文庫の夏

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著作権が消滅した作品を気軽に読める「青空文庫」。文豪の名作から知る人ぞ知る貴重な一遍まで、大量の作品が公開されています。

普段は文庫本派ですが、読むものがなくなってしまった時に青空文庫は重宝します。iPhone用リーダーも文字や行間変更、バック地の色、紙をめくるような効果など、なかなか使い勝手のいいものに仕上がってます。

今回は「青空文庫」の中から、夏の夜にぴったりのちょっと不思議な怪異譚系の作品を紹介します。どれも短めでさっと読める短編ばかりです。


●指輪一つ
岡本綺堂
名著「青蛙堂鬼談」の続編ともいえる「近代異妖篇」の中の一遍。関東大震災を知り、飛騨高山から東京へ向かう汽車の中で出会った男と泊まった宿での怪異譚です。


●押絵と旅する男
江戸川乱歩
乱歩の短編の中でも評価の高い幻想的一遍。魚津に蜃気楼を見に行った帰り、夜行列車の中で出逢った、押絵を持つ男が語る不思議な物語です。


●何んでも無い
夢野久作
独自の世界を持つ影の巨匠夢野久作の「少女地獄」の一遍。看護婦として優秀で魅惑的な少女の嘘に嘘を重ね破綻してゆく、すごい話です。


●遠野物語
柳田国男
日本の民俗学の祖とも言われる名著。こちらは短編というより遠野地方に伝わる伝承などを記した説話集です。口語ではないですがわかりやすい文体です。



●青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/

iPhone用青空文庫リーダーアプリ「i読書」はApp Storeから



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2017年03月24日

村田喜代子の異世界

芥川賞受賞作「鍋の中」や映画化された「蕨野行」で知られる村田喜代子。この人の小説は独自の世界を持っています(タイトルもいいセンスです)。どこにもありそうで決してない不思議な舞台設定、そして奇妙な人たち。ファンタジーというほど夢物語でなく、幻想小説というほど幽玄でない、ある意味庶民的な人たちが、不可思議な世界を生きている、といった感じでしょうか。

純文学系ではありますが、何を物語っているのかわからない自己表現だけの感覚的なものでなく、話として楽しめ、何とも言えない読後感を味わえる小説です。そんな異世界小説、村田喜代子作品の中からお気に入りを三冊紹介します。他にも、短編集「鯉浄土」や「人が見たら蛙に化れ」など魅惑的なタイトルの作品もあります。


「硫黄谷心中」
昔心中の名所だった硫黄谷を舞台に、澤田屋旅館に集まった宿泊客と旅館の父娘、従業員のお婆さん、さらにはそこで昔起きた3組の心中が交錯する作品です。


「お化けだぞう」
宝永六年、日本橋の浜田屋の主人藤兵衛と妻のタキや手代たちが旅先で、草木による怪異を体験する連作短編集です。

「耳納山交歓」
耳納山麓の別荘地キクラゲ村の住人と、山深く時の止まった隠れ里に住むヒラタケ村の人々との不思議な交流を描いた心温まる作品です。
名品なのにAmasonや古書店にもなかなかありません。図書館にはあるかもしれません。

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