2017年03月24日

村田喜代子の異世界

芥川賞受賞作「鍋の中」や映画化された「蕨野行」で知られる村田喜代子。この人の小説は独自の世界を持っています(タイトルもいいセンスです)。どこにもありそうで決してない不思議な舞台設定、そして奇妙な人たち。ファンタジーというほど夢物語でなく、幻想小説というほど幽玄でない、ある意味庶民的な人たちが、不可思議な世界を生きている、といった感じでしょうか。

純文学系ではありますが、何を物語っているのかわからない自己表現だけの感覚的なものでなく、話として楽しめ、何とも言えない読後感を味わえる小説です。そんな異世界小説、村田喜代子作品の中からお気に入りを三冊紹介します。他にも、短編集「鯉浄土」や「人が見たら蛙に化れ」など魅惑的なタイトルの作品もあります。


「硫黄谷心中」
昔心中の名所だった硫黄谷を舞台に、澤田屋旅館に集まった宿泊客と旅館の父娘、従業員のお婆さん、さらにはそこで昔起きた3組の心中が交錯する作品です。


「お化けだぞう」
宝永六年、日本橋の浜田屋の主人藤兵衛と妻のタキや手代たちが旅先で、草木による怪異を体験する連作短編集です。

「耳納山交歓」
耳納山麓の別荘地キクラゲ村の住人と、山深く時の止まった隠れ里に住むヒラタケ村の人々との不思議な交流を描いた心温まる作品です。
名品なのにAmasonや古書店にもなかなかありません。図書館にはあるかもしれません。

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2017年02月25日

YOKAI

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フランス人写真家シャルル・フレジェによる、日本の「YOKAI」(妖怪)たちをとらえた写真集「YOKAI NO SHIMA」。日本の各地に伝わる祭りの仮面や装束を使い、独自の妖怪ポートレイトにしています。

知ってるものもあれば、本当に日本の祭装束?といったものまで、いろいろ掲載されています。あらためて、ここで紹介されているような伝統の行事はどんなことがあっても絶やしてはいけない貴重な文化だと気づきます。

●WIRED.jpより
フランス人写真家が捕らえた「YOKAI」が教えてくれる、異世界と「共存」するということ
http://wired.jp/2016/08/21/yokai-no-shima/?utm_content=bufferd12d1&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer




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2017年01月08日

年末年始に読んだ本

2017年も5日を過ぎると一気に普通モードに入って、年末年始が早くも随分前のような気になります。テレビ全盛時の子供の頃のなんとも言えない高揚感があった正月も遠い昔、録画した映画や読書三昧でした。そんな年末年始に読んだ、ちょっと心を豊かにした本を幾つか紹介します。


●ツナグ 辻村深月
一度だけ死者との再会を叶えてくれる「使者(ツナグ)」。突然死したアイドル、今は亡き母、事故で亡くなった親友、失踪した婚約者、との再会を希望する人々が使者(ツナグ)の仲介のもと再会を果たします。
最終話は、使者(ツナグ)になるまでの青年の話になっています。季節は関係ない小説ですが、冬に読むのが合ってるように思いました。





●空海 高村薫
日本仏教界の巨人「空海」の足跡を辿る、作家高村薫の思索の旅です。日本の真言宗の誕生から空海死後、弘法大師に至るまでの変化が語られています。私は宗教心はほとんどないのですが、高野山とか密教とか不動明王など、謎に包まれた感があってなぜか惹かれます。






●pen 2016年5月15日号 完全保存版 いとしの歌謡曲。
「はっぴいえんど」が、歌謡曲を変えた、の目次で始まる歌謡曲特集。洋楽・フォーク・ロックと融合し、独自の世界が花開いた質の高い7.80年代の歌謡曲。いまだ聴き継がれる曲がいかに多いか‥。好きな人にはたまらない特集です。






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2016年08月24日

文明の変化がゆっくりした時代

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以前2012年に「一〇〇年前の女の子」という本を紹介しましたが、7月に文庫化されたことで、作者の船曳由美さんと私の大好きな画家・イラストレーター安野光雅さんの対談が興味深かったので紹介します。

文中にもある「文明の変化がゆっくりした時代」は、1950年代くらいまででしょうか。1960年代から80年代までは風景や生活が一変する時代が続き、2000年以降はネット社会になり、せわしない時代が続いています。そんな激変する時代に生まれ、ゆっくりした時代を知らないからか、対談の中の自然と共存し、たくさんの歳時があった時代にとても憧れを感じてしまいます。

今の便利な生活を捨てられないし、農作業などとてもできないし、大家族や村社会も苦手なのに、強烈な郷愁と羨ましさを感じるのがなぜなのかわかりません・・。虫送りや盂蘭盆の迎え火、正月の餅つきなど、長く自然そして季節と密着して暮らしてきたDNAによる本能的渇望なのでしょうか。


●本の話WEB より
一〇〇年前の女の子が見た日本(前編)安野光雅×船曳由美
http://hon.bunshun.jp/articles/-/5067







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2016年04月18日

「猫谷」への誘い


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丸尾末広と並ぶガロ系サブカル漫画家の巨匠花輪和一の世界観はやはりすごいです。ここで紹介する「猫谷」も得意の中世の世界を舞台に、強烈な登場人物が出てくる短編集となっています。

仏教説話的な世界なのですが、それをさらに昇華させ、戦慄すら覚える異形世界を形成しています。グロテスクな描写も、ぶっ飛び過ぎていて逆に楽しくなってしまいます。

この世界にハマってしまう方は、その他の花輪作品(おそらく丸尾末広作品も)の恐ろしくも楽しいディープな耽美世界にいざなわれることでしょう。陰惨なグロと違い、耽美なエログロですが人によっては受け付けないので注意が必要です。なお有名なことですが、「ちびまる子ちゃん」の花輪くん、丸尾くんはこの二人から名付けられています。

収録作品
「慈肉」
「不倫草」
「荻」
「へそひかり」
「生霊」
「唐櫃の中」
「ギボゴヤ」
「軍茶利明王霊験記」
「ゆげにん」
「背中の国」





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2016年01月16日

リブとふうてん

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(c) 福島菊次郎/三一書房

私が生まれた60年代末は、江戸の文化文政期の次に魅かれる時代です。昭和元禄とも言われ、様々な文化が花開き、70年代に入り爛熟し退廃していきました。そんな時代を切り取った写真集が、昨年94歳亡くなった福島菊次郎さんの「戦後の若者たち Part2 リブとふうてん」です。

サイケやヒッピーがたむろし、新宿風月堂(お菓子のではなく喫茶店)には文化人やアーティストが集い、自由を謳歌していました。この写真集を見ると、その時代のエネルギーのすごさに憧れ、そしてここに写っている人はその後どんな40年を過ごし、現在どうなっているのか、そんなことを知りたくなります。

原爆被災者の記録など代表作はまだ購入できるようですが、残念ながらこの「戦後の若者たち Part2 リブとふうてん」は、Amazonにはないようです。ただ図書館には結構置いてあるようで興味ある方は借りてみてください。

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(c) 福島菊次郎/三一書房

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(c) 福島菊次郎/三一書房

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(c) 福島菊次郎/三一書房




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2016年01月04日

乱歩消滅

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2016年になったことで没後50年が過ぎ、江戸川乱歩の著作権が消滅しました。これによりパブリック・ドメインの文学作品を公開している「青空文庫」に乱歩作品が大量に追加され、無料で読むことができるようになります。1月3日現在まだデビュー作「二銭銅貨」のみですが、これから作業中の作品がどんどん公開される予定です。

私は春陽堂の文庫をかなり持っているのですが、それでも全てというわけではないので、これで未読作品を気軽に読むことができるようになります。乱歩未経験の方はこれを機会に、「押絵と旅する男」「屋根裏の散歩者」「パノラマ島奇談」「人間椅子」等乱歩の世界に魅入られてください。

また谷崎潤一郎も著作権が切れ、怪奇から絢爛まで日本文学の極みを味わえます。「痴人の愛」「刺青」「鍵」など大人の耽美世界は必読です。

なおTPPで著作権保護期間が没後50年から70年に延長される可能性があり、今後没後50年を迎える山本周五郎や三島由紀夫はさらに20年待たなければならなそうです(買って損をしない作品が多々あるのでそうまでして待つ必要はないですが・・)。

●青空文庫
http://www.aozora.gr.jp



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4日になってしまいましたが、あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いします。

ホームページ(PC向け)+ELPH+ studioを更新し、素材、毎月のロック等を追加更新しました。詳細は、+ELPH+ studio内「+What's New」を御覧ください。

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2015年08月10日

惹かれる「春秋山伏記」


土着的な風習や昔ばなし的な世界、日本の原風景が頭の中に絵として浮かぶような小説が大好きなのですが、中々そういった世界と読み応えを合わせたような作品には巡りあいません。昔の名作では岡本綺堂の「青蛙堂鬼談」などの怪談ものや田山花袋の「重右衛門の最後」、近作では井上ひさしの「新釈 遠野物語」や朱川湊人「いっぺんさん」などお気に入りですが、時代小説の大家、藤沢周平の「春秋山伏記」も他の城下町や武士をテーマにした作品とひと味ちがう、山形県荘内地方の土着的な寓話で、何度も読み返すほど好きな作品です。

あらすじは、山間の小さな村に羽黒山から山伏がやってきます。長年住み着いて信望を集めていた偽山伏を追い出し、はじめは村人からうさん臭く思われていましたが、狐憑きを直したり、間男騒ぎをもみ消したり、嫁の世話などに霊験あらたかな力を発揮し、次第に村人から畏怖と尊敬の念を抱かれるようになります・・。

○験試し○狐の足あと○火の家○安蔵の嫁○人攫い、の五編からなる連作短編作品で、「新釈 遠野物語」にも通づる昔ばなし的な世界もあり、消えてしまった民「サンカ」が絡んだ古き時代の荘内地方に伝わる習俗を味わえる作品となっています。文庫表紙の村上豊氏のイラストも大好きです。




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2015年01月13日

読書のすすめ

小説を読まない人が増えていますが、これは本当にもったいないことです。コミックや映像作品があれば十分、という人もいますが、大きな違いは内容の濃さ、深さもさることながら、なによりも自分の脳内ですべて考え、描くことができるところです。風景、色合、登場人物のイメージなどすべて自分の頭の中で作り上げることができます。

コミックだとストーリーはいいけどデッサン力のない絵で台無しになることもありますし、映像作品だと世界観はいいのに登場人物や風景が納得出来なかったりと幻滅することが多々あります。小説ではそれらすべて自分の思いのままイメージできるので、自分の思い描く人や景色を投影することも好き勝手なので、そういった不満はなくなり、より話の世界に没頭できます。

もちろん情景描写などの文章表現のうまさは、コミックや映像作品とは比べられないほど豊かですし、同じ10ページでもコミックの何倍もの内容を得られるのでお得でもあります。

コミックや映像作品も楽しい作品がたくさんあるので、その楽しさも必要ですが、小説の魅力は得難いものです。読み物としてラノベから入るのもいいですが、ラノベはコミックの文章化的な世界なので、だったらコミックのままのほうがいいように思います。やはり文章世界を堪能できる”小説”を読むことをお薦めします。以下私の好きな小説をいくつか紹介します。

●青蛙堂鬼談 - 岡本綺堂
百物語形式の怪談集の名作「青蛙堂鬼談」です。失われた日本の空気
を濃密に体験できる怪談集で「近代異妖編」も一緒にお薦めします。



●岬にての物語 - 三島由紀夫
表題作と「月澹荘綺譚」の世界観が大好きです。晩年の極右化による
最悪の結末…がなければ、どんな作品が生まれていたのでしょう。



●江戸川乱歩傑作選 - 江戸川乱歩
乱歩初期の短編は名作-代表作揃いです。推理小説と違い、大正・
昭和初期の探偵小説は、怪奇小説としても楽しめます。



●新釈 遠野物語 - 井上ひさし
遠野物語のオマージュでありながら、井上ひさし独自の”滑稽”な
民話的怪異譚で、何度も繰り返し読んでます。



●棘まで美し - 武者小路実篤
悪人の出てこない武者小路文学。屈折した主人公の
周りも善人だらけで理想郷のような世界です。



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2014年10月21日

生々しく恐ろしい羆嵐

東日本大震災後に「警告の書」として増刷された「三陸海岸大津波」など、大事件や事故を周到に取材した記録文学で有名な吉村昭氏の「羆嵐」を読みました。大正期に起った日本最悪のヒグマによる獣害事件を元に描かれた作品で、フィクションでは得られない圧倒する力を持っています。

大正4年(1915年)冬、北海道の苫前村、三毛別、六線沢(すべて現苫前町)の開拓村に冬眠の時期を逃したヒグマが現れます。冬穴を見つけられなかった”穴持たず”のヒグマは飢えているため凶暴で、わずか2日間のあいだに死者6人、重傷者3名を出す大惨事となってしまいます。さらなる被害を恐れ、麓の村民そして警察にヒグマ退治を要請しますが、山の中ということもあって勝手が分からずヒグマに翻弄され続けます。そこで村民は、酒乱で関り合いを避けてきた熊撃ち名人の銀四朗に助けを求めることにします…。

現実に起こった事件(実際は開拓民7名が死亡)であり、人が餌として食われる恐怖は、ホラーとは違う生々しさで迫ってきます。現在、苫前町三渓には「三毛別ヒグマ事件復元現地」があり、当時の開拓民の住居や襲ったヒグマの復元を観ることができます(詳細は下記リンク参照)が、冬は極寒になる地で、あのような簡易な家で開拓をしながら生きていたのもすごいことです。たった100年前のできごとです…。

●北海道苫前町
三毛別ヒグマ事件復元現地
http://www.town.tomamae.lg.jp/section/kikakushinko/lg6iib0000000ls1.html





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