2021年04月06日

くちぬいのリアル

田舎暮らしに憧れを持っている人にはお薦めしない、坂東眞砂子の小説「くちぬい」を紹介します。怪異的なホラーというより、神を侵害するものを神に代わって成敗しても罪ではない、と無垢に信じる村人の狂的怖さを存分に味わえます。

定年退職後、趣味の陶芸に没頭したい夫竣亮と放射能汚染の不安から東京を逃れたい妻麻由子は、高知の山奥の白縫集落に移住してきます。老人ばかりの村で二人は歓迎され、移住した山村の暮らしに期待を持ちますが、神社に続く道の上に竣亮が陶芸の窯を作ったことから村人と衝突し、水道管の破壊、車庫の地面に刃物、猫の死骸を吊るすなど陰湿な嫌がらせが始まります。表向きは笑顔で挨拶をする村の老人たち。誰が犯人なのか疑心暗鬼になり、麻由子は徐々に被害妄想に取りつかれて行きます…。

坂東眞砂子自身が高知の山の中に引っ越した際に、土地の区分をめぐり陰湿な嫌がらせを受けたことから着想を得たと巻末に書かれています。頭でイメージした憧れの田舎暮らしと違い、そこは地縁・血縁と因習に包まれた排他的な世界(逆に自分が村人の立場に立てば、考え方もそれまでの人生もわからない余所者に偏見や警戒するのも理解できます)。そのなんとも言えない”中の者”と”外の者”の乖離が、ゾッとするほどリアルに伝わってくる作品です。




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2020年12月01日

想像ジパング

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17世紀にオランダの歴史学者モンタヌスが描いた『日本誌』の挿絵が堪能できる「おかしなジパング図版帖」という本を紹介します。

当時の文献をもとに想像を巡らせ描かれた”日本”は、まさに荒唐無稽で戦慄の走る世界です。それでも、まったく日本とは違うか、というとそうでもなく、”あゝこれは千手観音を頭の中で構成して描いてるんだな〜”、となんとなくわかるのですが、全体的に当時日本より交易があったインドや東南アジアの絵や像の影響下にあり、暑い絵になっていて日本の風情は微塵もありません。そして何か妙に陰鬱さが滲み出ています。当時のヨーロッパ人にとっては、これが日本だったのでしょう。とにかく奇妙で奇形なジパングが満載です。




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2020年06月28日

動物根付の魅惑

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根付は、着物の帯や印籠やたばこ入れなどに引っ掛ける留め具ですが、現在のシンプル路線な装飾デザインとは真逆の、なんでもありな芸術表現の極みのような世界を持っています。

特に動物をモチーフにした根付は多様で、また魅力的でもあります。光村推古書院の「根付の図鑑《動物》」には、そんな工芸品として一級品の動物をモチーフにした根付が多数紹介されています。シンプルな表現のものから、よくぞこんな風に構成したな、と驚嘆してしまうものまで、観ているだけで楽しいです。


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2020年05月03日

補陀落と小磐梯

"不要不急の外出を自粛"の今、自画自賛好きな右寄りの方やキャスターが、「自粛でここまで出かけなくなる日本人はすごいです」と渋谷スクランブル交差点を見ながらコメントしてますが、行きたい店が閉まってるから行かないだけで、店が開いてる商店街やパチンコは普段以上に混雑しているのが現状です。

早く収束させるには、なるべく外出は控え、家で過ごすのがベストです。映画を観るのもいいですが、たまには読書三昧するのもお薦めです。よく、落ち込んでる時は楽しく気軽なのがいいと言う人もいますが、時としてその楽しさが自分とはかけ離れた能天気さや絵空事に感じて楽しめないことがあり、逆にヘビーで深い方が癒してくれる場合もあります。

井上靖の短篇集「補陀落渡海記 井上靖短篇名作集」は、後者に当たりますが、人は皆悩み、恐怖や自然の脅威などを体験し、時を生きていることを感じさせる名著です。

熊野補陀落寺の記録に残る実話を元に、61歳の11月に小舟に乗って西方浄土に旅立たなければならない主人公住職金光坊の恐怖と葛藤を描いた表題作「補陀落渡海記」も必読ですが、その世界に入り込んでしまったのは、1888(明治21)年の磐梯山大噴火を描いた「小磐梯」です。裏磐梯の檜原村へと測量調査に赴いた郡役所の役人の手記というかたちの小説で、磐梯山近辺の異常現象に不吉なものを感じながら調査していくと、「ここから先に入ってはいけない」と気がふれたような老人に出会ったり、動物が逃げまどう姿を目にします。そして、地鳴りや揺れで不安になった住民が、山に向かって「ぶんぬけるんなら、ぶんぬけてみろ」と叫んだ瞬間、火山は大爆発を起こします…。

圧倒される自然の脅威の前に人は何もできないことが、ちょっと寓話的な世界で繰り広げられる名作です。他にも「グウドル氏の手套」「姨捨」「道」など、独自の世界観が味わえる9篇が収録されています。




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2020年02月07日

C-3PO金色様

時代小説ともSFとも違う、不思議な世界を味わえる恒川光太郎の「金色機械」を読みました。恒川光太郎といえば、ホラー小説大賞受賞の「夜市」など独自の異世界を描くのが得意な作家ですが、この「金色機械」も舞台を江戸時代にした何とも言えない不思議な世界を堪能できます。

人の殺意を見抜く力がある、遊郭の主・熊五朗のもとに、手を触れるだけで命を取ることができる遙香という女が訪れます。過去を話始める遙香と幼少期に鬼御殿と呼ばれる山で過ごした熊五朗の過去は、金色様という不思議な存在と深く関わっていました…。

人間とは次元の違う力を持っている謎の「金色様」の風貌は明らかにC-3POです。熊五朗の生い立ち、遙香の生い立ちなど時代ごとに章が分かれていて、時代の流れ、人の死や別れなど物語は壮大な世界ですが、「金色様」が関わることで重くならず、ファンタジー感ある作品になっています。




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2019年10月05日

サンカの出てくる小説

ほんの少し昔まで、「サンカ」と呼ばれる、日本の社会システムに属さない人々が住んでいました。漂泊の民、山の民とも言われ、サンカという呼名は、日本人=定地人が勝手に付けた名称です(日本人という概念も庶民には明治以降からで、江戸時代までは武蔵とか相模の"国"の者といった感じでしたが)。

定住せず何百キロも山々を巡り、狩猟採集によって生活し、箕籠など作っては村々を訪れることもあったようです。戦後、徹底的に戸籍管理され、流浪の民サンカは日本から消えてしまいます‥。

彼等がどんな暮らしをしてたのか、今では想像するのも難しいですが、小説の中に出てくるサンカで少しその姿が垣間見られます。

BGMに「姫神せんせいしょん」や喜多郎を流しながらサンカ小説を読むとトリップできます。


●サンカの民を追って 山窩小説傑作選 - 岡本綺堂他
まだサンカの人々がギリギリ存在していた頃の作家たちの短編集です。


●春秋山伏記 - 藤沢周平
藤沢作品には珍しく、山伏と村人たちのふれあいを描いた大人の昔話的小説で、山の民も関わってきます。


●鷲の唄 - 椋鳩十
サンカ小説として有名ですが絶版のようです。厳しい漂泊の暮らしを描いています。





水光る - 姫神せんせいしょん



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2019年08月04日

読書の夏

暑い夏、出かけるのも億劫になってしまいます。エアコンの効いた部屋でのんびり読書するのも一考です。ジャンルは違いますが、おすすめの本をいくつか紹介します。

下記載せたサティの「ジムノペディ」なんか聴きながら本の世界に浸るのも悪くありません。

●村のエトランジェ - 小沼丹
小さな村に疎開してきた、美しい姉妹の恋をめぐる波紋と水難事件を描いた表題作など初期作品8篇が収録されている短編集です。夏がテーマではないのですが、文章に品があって湿度がないので、高原のホテルで読んでるような気持ちになります。




●異形のものたち - 小池真理子
セミが鳴り響く農道の向こうから白い日傘をさした和服の女性は般若の面をつけていた「面」など、異形のものたちと出会う、怪奇幻想な短編6作品が収められています。




●古道具屋 皆塵堂 - 輪渡颯介
文学というより気軽に読めるノベルズ系の時代小説です。曰くつきの古道具屋・皆塵堂を舞台に怪異な出来事が次々と巻き起こるシリーズです。妖怪漫画を読むような感覚で気軽に楽しめます。




サティ「ジムノペディ」
Erik Satie - Trois Gymnopedie 1.2.3



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2018年11月10日

その世界に入りたい「木もれ陽の街で」


「木もれ陽の街で」諸田玲子

恋がまだ多くの人にとってひそやかだった時代、昭和26年〜27年の荻窪を舞台にした、諸田玲子の小説「木もれ陽の街で」を紹介します。

空襲の被害に遭わず、周りには与謝野晶子邸や元陸軍大尉の家が残る荻窪に住む小瀬家。主人公「公子」は、丸の内にある商社の医務室に勤務しています。近所には結婚せず姉妹で暮らす父方の伯母が住み、八丈島に住む母方の大伯母は、初恋の男と再会し逢い引きのため年に二度小瀬家にやってきます。幼馴染の祥子は代議士の息子との婚約が整い、裏の家では一家心中が起き、向かいのお妾さんが通いの学生と浮気して追い出されたりと、小さな事件が起こる中、公子は、憂いを持つ画家の片岡と出会い、お互いに惹かれていきます…。

向田邦子的世界が好きな方にはお薦めです。秘めた恋だけでなく結構ドロドロした恋愛や、重い死が絡んできても、なぜか暖かい空気というか、やわらかな世界があって、そこで暮らしている幸せが感じられます。


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2018年10月26日

つげ義春を読みながら




つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人

これからの季節、「つげ義春」が読みたくなります。つげ義春を初めて読んだのは、当然後追いで、90年代初めくらいだったと思います。「無能の人」や「ゲンセンカン主人」などが映画化され、ちょっとリバイバルブームになっていた頃でしょうか。多摩美時代、横尾忠則や寺山修司などで6.70年代にハマりだしていたので、つげ義春は必然でした。

つげ義春作品は、独自のシュールさとエロティシズム、そして郷愁をそそる世界観に包まれていて、なんとも言えない至福の時を過ごせます。展開や結末がどうだとかいうマンガではないので(コミック系マンガ好きの人は受け付けないかもしれません…)、その世界に浸りたいときは、何度でも読み返して楽しめるのも魅力です。下記の曲は、つげ義春世界を旅する時に聴いている曲です。

●赤い花・白い花 - 赤い鳥


●かくれんぼ - はっぴいえんど


●小春おばさん - 井上陽水




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2018年01月11日

吹雪の山荘もの

ミステリ小説のジャンルに「クローズド・サークル」というのがあります。密室ものの中で、雪山や孤島を舞台に外界と遮断された状況下で起こる事件を扱った作品で、「吹雪の山荘もの」「嵐の孤島もの」ともいわれています。

本格的ミステリファンではなく、読みながら推理したりする頭も持っていないので、横溝(金田一)映画を観る感覚で読むのですが、それでもそんな閉ざされた舞台の一員になったつもりで読むとなかなか楽しめます。

真冬になるこの時期、雪山を舞台にした「吹雪の山荘もの」作品を幾つか紹介します。布団に入りながら、暖房の効いたリビングやこたつの中で、落ち着いた喫茶店で、雪山へトリップするのもいいものです。


●星降り山荘の殺人 - 倉知淳
雪に閉ざされた山荘に集まった、癖の強い面々。交通が遮断され電気も電話も通じない中で発生する連続密室殺人。事件解決かと思ったら…、大どんでん返しが待っています。




●ある閉ざされた雪の山荘で - 東野圭吾
舞台稽古のため、乗鞍高原に集まったオーディションに合格した男女7人。豪雪で孤立した山荘で一人また一人、仲間が消えていく。これは芝居なのか、現実か…。




●彼女らは雪の迷宮に - 芦辺拓
雪深い山荘に招かれた、6人の女たち。そこに7人目の客を名乗る不審な女が現れ、その直後から一人ずつ女性の姿が消えてゆく…。




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