2018年11月10日

その世界に入りたい「木もれ陽の街で」


「木もれ陽の街で」諸田玲子

恋がまだ多くの人にとってひそやかだった時代、昭和26年〜27年の荻窪を舞台にした、諸田玲子の小説「木もれ陽の街で」を紹介します。

空襲の被害に遭わず、周りには与謝野晶子邸や元陸軍大尉の家が残る荻窪に住む小瀬家。主人公「公子」は、丸の内にある商社の医務室に勤務しています。近所には結婚せず姉妹で暮らす父方の伯母が住み、八丈島に住む母方の大伯母は、初恋の男と再会し逢い引きのため年に二度小瀬家にやってきます。幼馴染の祥子は代議士の息子との婚約が整い、裏の家では一家心中が起き、向かいのお妾さんが通いの学生と浮気して追い出されたりと、小さな事件が起こる中、公子は、憂いを持つ画家の片岡と出会い、お互いに惹かれていきます…。

向田邦子的世界が好きな方にはお薦めです。秘めた恋だけでなく結構ドロドロした恋愛や、重い死が絡んできても、なぜか暖かい空気というか、やわらかな世界があって、そこで暮らしている幸せが感じられます。


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2018年10月26日

つげ義春を読みながら




つげ義春コレクション 紅い花/やなぎ屋主人

これからの季節、「つげ義春」が読みたくなります。つげ義春を初めて読んだのは、当然後追いで、90年代初めくらいだったと思います。「無能の人」や「ゲンセンカン主人」などが映画化され、ちょっとリバイバルブームになっていた頃でしょうか。多摩美時代、横尾忠則や寺山修司などで6.70年代にハマりだしていたので、つげ義春は必然でした。

つげ義春作品は、独自のシュールさとエロティシズム、そして郷愁をそそる世界観に包まれていて、なんとも言えない至福の時を過ごせます。展開や結末がどうだとかいうマンガではないので(コミック系マンガ好きの人は受け付けないかもしれません…)、その世界に浸りたいときは、何度でも読み返して楽しめるのも魅力です。下記の曲は、つげ義春世界を旅する時に聴いている曲です。

●赤い花・白い花 - 赤い鳥


●かくれんぼ - はっぴいえんど


●小春おばさん - 井上陽水




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2018年01月11日

吹雪の山荘もの

ミステリ小説のジャンルに「クローズド・サークル」というのがあります。密室ものの中で、雪山や孤島を舞台に外界と遮断された状況下で起こる事件を扱った作品で、「吹雪の山荘もの」「嵐の孤島もの」ともいわれています。

本格的ミステリファンではなく、読みながら推理したりする頭も持っていないので、横溝(金田一)映画を観る感覚で読むのですが、それでもそんな閉ざされた舞台の一員になったつもりで読むとなかなか楽しめます。

真冬になるこの時期、雪山を舞台にした「吹雪の山荘もの」作品を幾つか紹介します。布団に入りながら、暖房の効いたリビングやこたつの中で、落ち着いた喫茶店で、雪山へトリップするのもいいものです。


●星降り山荘の殺人 - 倉知淳
雪に閉ざされた山荘に集まった、癖の強い面々。交通が遮断され電気も電話も通じない中で発生する連続密室殺人。事件解決かと思ったら…、大どんでん返しが待っています。




●ある閉ざされた雪の山荘で - 東野圭吾
舞台稽古のため、乗鞍高原に集まったオーディションに合格した男女7人。豪雪で孤立した山荘で一人また一人、仲間が消えていく。これは芝居なのか、現実か…。




●彼女らは雪の迷宮に - 芦辺拓
雪深い山荘に招かれた、6人の女たち。そこに7人目の客を名乗る不審な女が現れ、その直後から一人ずつ女性の姿が消えてゆく…。




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2017年08月21日

青空文庫の夏

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著作権が消滅した作品を気軽に読める「青空文庫」。文豪の名作から知る人ぞ知る貴重な一遍まで、大量の作品が公開されています。

普段は文庫本派ですが、読むものがなくなってしまった時に青空文庫は重宝します。iPhone用リーダーも文字や行間変更、バック地の色、紙をめくるような効果など、なかなか使い勝手のいいものに仕上がってます。

今回は「青空文庫」の中から、夏の夜にぴったりのちょっと不思議な怪異譚系の作品を紹介します。どれも短めでさっと読める短編ばかりです。


●指輪一つ
岡本綺堂
名著「青蛙堂鬼談」の続編ともいえる「近代異妖篇」の中の一遍。関東大震災を知り、飛騨高山から東京へ向かう汽車の中で出会った男と泊まった宿での怪異譚です。


●押絵と旅する男
江戸川乱歩
乱歩の短編の中でも評価の高い幻想的一遍。魚津に蜃気楼を見に行った帰り、夜行列車の中で出逢った、押絵を持つ男が語る不思議な物語です。


●何んでも無い
夢野久作
独自の世界を持つ影の巨匠夢野久作の「少女地獄」の一遍。看護婦として優秀で魅惑的な少女の嘘に嘘を重ね破綻してゆく、すごい話です。


●遠野物語
柳田国男
日本の民俗学の祖とも言われる名著。こちらは短編というより遠野地方に伝わる伝承などを記した説話集です。口語ではないですがわかりやすい文体です。



●青空文庫
http://www.aozora.gr.jp/

iPhone用青空文庫リーダーアプリ「i読書」はApp Storeから



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2017年03月24日

村田喜代子の異世界

芥川賞受賞作「鍋の中」や映画化された「蕨野行」で知られる村田喜代子。この人の小説は独自の世界を持っています(タイトルもいいセンスです)。どこにもありそうで決してない不思議な舞台設定、そして奇妙な人たち。ファンタジーというほど夢物語でなく、幻想小説というほど幽玄でない、ある意味庶民的な人たちが、不可思議な世界を生きている、といった感じでしょうか。

純文学系ではありますが、何を物語っているのかわからない自己表現だけの感覚的なものでなく、話として楽しめ、何とも言えない読後感を味わえる小説です。そんな異世界小説、村田喜代子作品の中からお気に入りを三冊紹介します。他にも、短編集「鯉浄土」や「人が見たら蛙に化れ」など魅惑的なタイトルの作品もあります。


「硫黄谷心中」
昔心中の名所だった硫黄谷を舞台に、澤田屋旅館に集まった宿泊客と旅館の父娘、従業員のお婆さん、さらにはそこで昔起きた3組の心中が交錯する作品です。


「お化けだぞう」
宝永六年、日本橋の浜田屋の主人藤兵衛と妻のタキや手代たちが旅先で、草木による怪異を体験する連作短編集です。

「耳納山交歓」
耳納山麓の別荘地キクラゲ村の住人と、山深く時の止まった隠れ里に住むヒラタケ村の人々との不思議な交流を描いた心温まる作品です。
名品なのにAmasonや古書店にもなかなかありません。図書館にはあるかもしれません。

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2017年02月25日

YOKAI

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フランス人写真家シャルル・フレジェによる、日本の「YOKAI」(妖怪)たちをとらえた写真集「YOKAI NO SHIMA」。日本の各地に伝わる祭りの仮面や装束を使い、独自の妖怪ポートレイトにしています。

知ってるものもあれば、本当に日本の祭装束?といったものまで、いろいろ掲載されています。あらためて、ここで紹介されているような伝統の行事はどんなことがあっても絶やしてはいけない貴重な文化だと気づきます。

●WIRED.jpより
フランス人写真家が捕らえた「YOKAI」が教えてくれる、異世界と「共存」するということ
http://wired.jp/2016/08/21/yokai-no-shima/?utm_content=bufferd12d1&utm_medium=social&utm_source=twitter.com&utm_campaign=buffer




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2017年01月08日

年末年始に読んだ本

2017年も5日を過ぎると一気に普通モードに入って、年末年始が早くも随分前のような気になります。テレビ全盛時の子供の頃のなんとも言えない高揚感があった正月も遠い昔、録画した映画や読書三昧でした。そんな年末年始に読んだ、ちょっと心を豊かにした本を幾つか紹介します。


●ツナグ 辻村深月
一度だけ死者との再会を叶えてくれる「使者(ツナグ)」。突然死したアイドル、今は亡き母、事故で亡くなった親友、失踪した婚約者、との再会を希望する人々が使者(ツナグ)の仲介のもと再会を果たします。
最終話は、使者(ツナグ)になるまでの青年の話になっています。季節は関係ない小説ですが、冬に読むのが合ってるように思いました。





●空海 高村薫
日本仏教界の巨人「空海」の足跡を辿る、作家高村薫の思索の旅です。日本の真言宗の誕生から空海死後、弘法大師に至るまでの変化が語られています。私は宗教心はほとんどないのですが、高野山とか密教とか不動明王など、謎に包まれた感があってなぜか惹かれます。






●pen 2016年5月15日号 完全保存版 いとしの歌謡曲。
「はっぴいえんど」が、歌謡曲を変えた、の目次で始まる歌謡曲特集。洋楽・フォーク・ロックと融合し、独自の世界が花開いた質の高い7.80年代の歌謡曲。いまだ聴き継がれる曲がいかに多いか‥。好きな人にはたまらない特集です。






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2016年08月24日

文明の変化がゆっくりした時代

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以前2012年に「一〇〇年前の女の子」という本を紹介しましたが、7月に文庫化されたことで、作者の船曳由美さんと私の大好きな画家・イラストレーター安野光雅さんの対談が興味深かったので紹介します。

文中にもある「文明の変化がゆっくりした時代」は、1950年代くらいまででしょうか。1960年代から80年代までは風景や生活が一変する時代が続き、2000年以降はネット社会になり、せわしない時代が続いています。そんな激変する時代に生まれ、ゆっくりした時代を知らないからか、対談の中の自然と共存し、たくさんの歳時があった時代にとても憧れを感じてしまいます。

今の便利な生活を捨てられないし、農作業などとてもできないし、大家族や村社会も苦手なのに、強烈な郷愁と羨ましさを感じるのがなぜなのかわかりません・・。虫送りや盂蘭盆の迎え火、正月の餅つきなど、長く自然そして季節と密着して暮らしてきたDNAによる本能的渇望なのでしょうか。


●本の話WEB より
一〇〇年前の女の子が見た日本(前編)安野光雅×船曳由美
http://hon.bunshun.jp/articles/-/5067







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2016年04月18日

「猫谷」への誘い


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丸尾末広と並ぶガロ系サブカル漫画家の巨匠花輪和一の世界観はやはりすごいです。ここで紹介する「猫谷」も得意の中世の世界を舞台に、強烈な登場人物が出てくる短編集となっています。

仏教説話的な世界なのですが、それをさらに昇華させ、戦慄すら覚える異形世界を形成しています。グロテスクな描写も、ぶっ飛び過ぎていて逆に楽しくなってしまいます。

この世界にハマってしまう方は、その他の花輪作品(おそらく丸尾末広作品も)の恐ろしくも楽しいディープな耽美世界にいざなわれることでしょう。陰惨なグロと違い、耽美なエログロですが人によっては受け付けないので注意が必要です。なお有名なことですが、「ちびまる子ちゃん」の花輪くん、丸尾くんはこの二人から名付けられています。

収録作品
「慈肉」
「不倫草」
「荻」
「へそひかり」
「生霊」
「唐櫃の中」
「ギボゴヤ」
「軍茶利明王霊験記」
「ゆげにん」
「背中の国」





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2016年01月16日

リブとふうてん

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(c) 福島菊次郎/三一書房

私が生まれた60年代末は、江戸の文化文政期の次に魅かれる時代です。昭和元禄とも言われ、様々な文化が花開き、70年代に入り爛熟し退廃していきました。そんな時代を切り取った写真集が、昨年94歳亡くなった福島菊次郎さんの「戦後の若者たち Part2 リブとふうてん」です。

サイケやヒッピーがたむろし、新宿風月堂(お菓子のではなく喫茶店)には文化人やアーティストが集い、自由を謳歌していました。この写真集を見ると、その時代のエネルギーのすごさに憧れ、そしてここに写っている人はその後どんな40年を過ごし、現在どうなっているのか、そんなことを知りたくなります。

原爆被災者の記録など代表作はまだ購入できるようですが、残念ながらこの「戦後の若者たち Part2 リブとふうてん」は、Amazonにはないようです。ただ図書館には結構置いてあるようで興味ある方は借りてみてください。

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(c) 福島菊次郎/三一書房

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(c) 福島菊次郎/三一書房

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(c) 福島菊次郎/三一書房




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