映画「蕨野行」や黒澤明の「八月の狂詩曲」(原作「鍋の中」-かなり内容は違います)など、話題作もあり誰もが認める名作家ですが、作家名だけで買ってもらえる商業的作家ではないので、絶版も多く(文庫化も少ない)、なかなか手に入らない作品もあります。
私が特に好きなのは、「耳納山交歓」「硫黄谷心中」「お化けだぞう」です。「耳納山交歓」は、耳納山麓の別荘地キクラゲ村の住人と山深く時の止まった隠れ里に住むヒラタケ村の人々との不思議な交流を描いた心温まる作品。「硫黄谷心中」は、昔心中の名所だった硫黄谷を舞台に、澤田屋旅館に集まった宿泊客と旅館の父娘、従業員のお婆さん、さらにはそこで昔起きた3組の心中が交錯する作品。「お化けだぞう」は、宝永六年、日本橋の浜田屋の主人藤兵衛と妻のタキや手代たちが旅先で、草木による怪異を体験する連作短編集です。
どれも不思議な作品で、他の作家では味わえない読後感が残ります。純文学系作家なので、誰もが単純気軽に楽しめる作品とはいえませんが、ちゃんとした小説を読んでる方にはとても魅力ある作品でしょう。「耳納山交歓」「お化けだぞう」など図書館では借りれますが、絶版なのかなかなか売っておらず古書での購入になってしまいます。こういう小説こそ出版し続ける価値ある小説だと思います…。